タクシーに乗っていると、たまに同郷のお客さんを乗せることがあります。

鹿児島出身の人はどこに行ってもなまりが抜けないので、最初の「こんにちは~」や「こんばんは~」のイントネーションですぐ分かります。

故に昨夜、スーツをびしっと着こなしたそのお兄さんが「こんばんは~」と言いながらお友達とご乗車になったときも、すぐに鹿児島の人だなと分かりました。

複数人で乗りこむ場合、通常は最初に降りる人が助手席に座るのですが、彼らは特に何も考えず乗って来たようで、後ろの2人を先に降ろすと、助手席に座る鹿児島出身らしいお兄さんと2人きりになりました。

なんか友達を家に送ってるみたいだな、と思いつつ別府から姪浜に向かって車を走らせていると、「もうタクシー長いの?」「なんでタクシー乗ろうと思ったの?」とよくある質問が始まりました。

もはやテンプレートと化している答えをほとんど考えることなく口にしていると、「今度飲みに行こうよ」「LINE交換しようよ」とこれもよくあるお誘いが始まりました。

はいはいモテる自慢ね、と思ってもらっては困ります。女と見ればとりあえず誘う、ラテン男みたいな人は一定数存在するのです。

「いやいや、お兄さん明日になったら私のこと忘れてますよ~笑」

「俺そこまで酔ってないけど」

「(た、確かに……。)うちには既婚者と連絡先を交換してはならないという家訓がありまして」

「じゃあ大丈夫だね、俺独身だから」

困りました。対お誘い用テンプレートが通用しません。

「ところでお兄さん、鹿児島出身じゃないですか?」

「えっ、分かる?」

無理矢理話を変えたところ、うまいこと乗ってきてくれました。

「分かりますよ~。私も鹿児島出身なんで(^^)」

「うそ、鹿児島のどこ?」

「市内です」

「マジで? 俺N町に住んでたよ」

「えっ、私もです。ひょっとしてN中ですか?」

「そう、N中!」

「先輩じゃないですか!」

無理矢理変えた話題がまさかここまで符合するとは……。

しかも2学年しか離れていなかった彼とは一年だけ在学期間が重なっており、当時在職していた先生方の話で思いがけず盛り上がりました。

しばらく中学時代の話に花を咲かせたあとで、彼はふと溜息をつきました。

「いや、俺実は結婚してるんだけどさ」

「してるんかい」

「福岡に来てから友達らしい友達っていなくて、ちょっと寂しかったっていうか……」

「だからって浮気はよくないですよ」

「だよねえ」

 背中を丸めて反省しているお兄さんを乗せ、タクシーは指示通りコンビニの駐車場へ。

「4千円です」

「ん。お釣り要らないから」

「いやいや、一万円は多すぎますよ!」

「いいから。先輩に恥かかすなよ」

どこか照れたように言い、彼はさっさと降りて行ってしまいました。

はてさて、このチップは先輩としての見栄なのか、はたまた口止め料なのか、あるいは嘘をついたことに対するお詫びなのか……。

彼の真意は不明ですが、同郷の後輩と知って思い留まってくれたのは事実でしょう。

うーん、いい人なのか悪い人なのか(笑)

根は悪い人じゃないんだろうなと思うCちゃんも、同郷の人間には甘い一人かもしれません(;´∀`)

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